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「ちょっと駅側の⽅角の部屋がいいんですよね」

出典: 事件はラブホで起きている
さて、ここからが探偵伊坂の腕の見せどころである。 ちなみに僕らが探偵であることが旅館やホテルスタッフにバレると、怪しまれて宿泊を断られてしまうことがある。最悪の場合、対象者たちに告げ口されてしまうことだってある。だから、こちらも身分を明かさず、さらに怪しまれることなく可能なかぎり自然な形で目的の部屋を取りたい。最初に断っておくが、伊坂に風水の知識はまったくない。 伊坂「あ、すいません。予約しないんですけど、今日って泊まれますか?」 スタッフ「ご宿泊ですね。可能でございます。1名様でございますか?」 伊坂「はいそうです。で、すいません……えっと、このホテルの東南西北の方角がわかるようなものって……あります?」 スタッフ「ございますよ。こちらです」 格式の高いホテルにはホテルを真上から俯瞰したような図が描かれた紙が用意されている。 伊坂「あ、ありがとうございます……はい、はい……なるほど……そっかそっか、こっちが……」 ここで動揺するような素振りを見せてはいけない。さも当たり前のように軽くウンウン頷きつつ、指差し確認しながら、ひとり言をつぶやくのがポイント。 スタッフ「…………」 このとき、スタッフは真剣な表情で見守っているが、ここも絶対に動揺してはいけない。 伊坂「あー、これいいですね……んー、今日、白黒虎のほうがいいかなぁ……すいません。もし、アレだったらでいいんですけど、ちょっと駅側の方角の部屋がいいんですよね。あと、何階と何階が空いてます?」 こだわりの強さをアピールしつつも、自分がワガママを言っている自覚を持っているという、謙虚な姿勢を演じることがポイント。ちなみに伊坂は、「白虎」がどの方角なのかすら、まったく理解していない。 スタッフ「本日でしたら、4階から8階、10階は空きがございます」 伊坂「あ、じゃあ、そのなかなら7階かなぁ。あと、できたら数字としては〝何0何〟みたいに、間に0がつく部屋がいいんですよね……」 「この客は方角だけでなく数字にもこだわりがあるのか!」と思わせることがポイント。 そして、あえてこちらから具体的に部屋番号を指定しないことがポイント。 スタッフ「それでしたら……702か707か709ですかね。いかがでしょう?」 伊坂「そうですかぁ……じゃあ、707でお願いしてもいいですか……ホント、すいません……」 ここでやっとの笑みを浮かべてはすべてが白熱した。 スタッフ「かしこまりました。では、707号室でお部屋をお取りしますね。お待ちください」 こうして風水探偵・伊坂は、見事に探偵としての身分を明かすことなく、そして怪しまれることもなく(クセの強い客だとは思われただろうが)目的の部屋を確保することに成功したのだ!